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知りたい事実と望まない思い <哀しい物語 12>

彼女は相手の手紙に添えられていた写真によって一連の事態は紛れもない現実のことだと突きつけられショックを受けつつ、またプライバシーの侵害と理解しつつも旦那さんに当てた相手の手紙を読むことにしたそうだ。どんなに彼女が旦那さんに相手とのことを問うても『忘れた・覚えてない』という返答で終わってしまう状態で、旦那さんが相手とのことをどう考え、現状でどうしたいと思っているのか、そして無垢に信じていたものが全て崩壊してしまっている中、旦那さんの何をどう信じればよいのか、それらが全く分からない彼女は少しでも旦那さんのことを知りたいと思ったからだという。

旦那さんに当てた相手の手紙には連れて行ってもらった場所やキスなど相手が旦那さんにしてもらったことが簡単かつ具体的に書かれた後、旦那さんが彼女の元へ戻ると決め、手術をしなければならい状態に置かれた相手の無念さと、旦那さんへの罵倒でしめられていたという。その中で彼女が最も傷ついたのは

『私が母親になる資格がないのと同様に、あなたも父親になる資格はない』

という一文だったそうだ。

その一文を受けて彼女は「あなたが今置かれてる立場なら断然そう思っても不思議はないが、私の夫にまでそう言い切ってしまったなら、あなたの相手だった男の妻である私に対して子を設ける資格はないと間接的に言っているのと同等だということを認識しているのか」という、怒りとも悔しさとも言える感情が湧いたそうだ。と同時に「簡単に親になる資格がないとレッテルを貼って自らに足枷をはめ、まだ先の長い人生を幸せも望めないような苦行のみにすることはない」という、哀れみのような気持ちも持ったそうだが、手術以降はお互い一切の連絡はしないということになっている以上、それらの気持ちを伝える術はすでになく、結局やりきれない思いでいっぱいになったそうだ。しかし、そんな手紙の内容やその手紙を読んだことで湧き起こる相手に対する自らの気持ち以上に、手紙に添えられていたエコー写真が相手と旦那さんの間で行われた行為の結果だという『事実』の方が、そしてそこに写っている小さな命を自らの『わがまま』によって絶ってしまったという現状が、彼女にとってはショックだったという。

そんなことがあったこともあり、彼女は『発覚する前のように夫を受け入れることが出来るのだろうか』という不安が頭をもたげていたという。心のどこか見えないところで旦那さんを拒否する気持ちが芽生えているのではないか、と。しかしながら彼女のそんな心配をよそに、そんなことはどこ吹く風といった感じで彼女は意外にあっさりと受け入れることが出来たという。「私の場合はそういう行為に対してある意味で特別なものだとは思っているものの、浄・不浄といった見方や変に神聖化させた見方をしていないおかげなんじゃないかな」というのが、そのことに関して振り返った自身に対する彼女の見解だ。

それよりもむしろ旦那さんの方が、自分の不安や弱さから逃げるための行為の結果、相手の心身と彼女の精神的を傷つけ、さらには小さな命を絶ってしまうことになったという事実があまりにもショックだったらしく、その行為に対してかなりの躊躇をしていたという話だ。彼女にとって相手と旦那さんの間の行為についてはショックだったものの、その結果もたらされた状況にショックを受けている旦那さんに対しては逆に同情的な気持ちでいっぱいだったそうだ。

しかし、だからといって彼女の中にくすぶる『事の真相を知りたい』という欲求はそれだけで収まるわけではなかったそうで、旦那さんの携帯やパソコンをあさっていくようになったそうだ。そして旦那さんも例に漏れることなく、旦那さんと相手の単なるツーショットの写真の他、行為の間に撮ったと思われるツーショット写真、さらには動画までもが出てきたのだそうだ。終わった事という割にパソコンや携帯の中で想い出を大切にしているかのように保存したままになっている状態に、彼女はいたたまれなくなったという。そんなとき『写真や動画が離婚の際の証拠として使える』という、インターネットなどで記載されていたという情報が頭をよぎった彼女は、それらを『保険』として残しておこうと自らの携帯やパソコンに転送という形で保存したそうだ。もしも離婚することになったときには証拠として使えるように残しておこう、と。その時の顔はたぶん、目が爛々としていて誰も近づけないような形相だったと思うわ、と彼女が寂しそうに少し笑いながらそう言っていたのが印象的だったのを覚えている。

そんなことをしている彼女に対して旦那さんも静観したわけではなかったという。時には旦那さんの携帯をいじっている彼女を見て「俺をまだ疑ってるのか」と旦那さんはすねてしまったり、車の中に閉じこもったこともあったそうだ。また、旦那さんが彼女へなのかも自分自身へなのかも分からない苛立ちをぶつけるかのように、携帯の写真などを保存していた記憶媒体を家の床に投げつけたりしたこともあったそうだ。

そんなある日、彼女と旦那さんの元に共通の友人から手紙が届いたそうだ。内容は今までつきあってた相手との間に子どもができ結婚することになったというものだったという。そこで彼女は改めて気付いたそうだ。友人に訪れた二重の幸せを心から祝ってあげられていない自分がいることに。そして改めて認識した心の中で燻っている感情とどう向き合って良いのか分からなかったという。

旦那さんとの間に子を設け育てるという、結婚したなら望んでもおかしくない夢。友人からの結婚前に妊娠したという告知から連想してしまう、相手と旦那さんと彼女の間で選択できた現状とは別の可能性への思い。自らが望む幸せという『わがまま』のために相手を傷つけ、相手と旦那さんの間に出来た罪なき小さな命を壊したという事実への罪悪感。自らが妊娠して初めて気付くであろう、当時の相手の心情を知ることへの恐怖。自分以外の女性と関係したという事実による自己に対する自信、とりわけ旦那さんに対する、妻として、女性としての自信の喪失。そして旦那さんをもう一度信じて良いのかという疑念…。そんな様々な感情が心の中をぐるぐると巡る中、彼女は結論めいた考えにたどり着いたそうだ。

「夫との間に子を設けることを諦めるべきなのではないか」

と…。


心情と思い出の整理の仕方を模索して <哀しい物語・13>

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