- 2009-08-07 (金) 15:05
- 哀しい物語
相手の手術も終わり、無事に自宅にたどり着いた彼女に旦那さんから相手からの1通の手紙が手渡されたそうだ。また旦那さんも自分に宛てられた手紙を受け取ったということで、それぞれ別の部屋にこもり相手からの手紙を読むことにしたそうだ。
彼女に宛てられた手紙の内容は彼女への謝罪と懺悔を表す言葉が綴られてはいたものの、それよりはむしろ、手術の恐怖や自らの戸籍に関わること、失われゆく命への高配を願うなど自らの置かれている現状に理解を示して欲しい旨が書かれているように受け取れたそうだ。彼女にとって期待していたものとは全く違った内容にショックを受けはしたものの、相手の年齢や経験、置かれている状況を考えると、そんな内容の手紙でも仕方がないだろうと思ったそうだ。
それどころか不思議と相手に対して恨みも憎しみも湧かず、逆に術後における彼女の喪失感や苦悩を考えると彼女自身がいたたまれず、出来ることなら直接顔を合わせて、心身とももう充分な仕打ちを受けたのだから、これ以上自身を責めず幸せになって良いと彼女に伝えたい気持ちだったそうだ。「状況や私の立場のせいで直接会ったとしても皮肉にしかとられないと思うから、本当に出来るなら天使なんかに変身して温かく抱きしめながらそう伝えてあげたい、その時は心底そういう気持ちだったのよ」と穏やかな笑顔で彼女はそう語っていたのが印象的だった。
また旦那さんに対して裏切られたというショックはあっても憎しみや恨みは湧かなかったそうで、離婚を覚悟していた旦那さんへ、改めて夫婦として共に過ごしていこうということを旦那さんをまっすぐ見つめながら次の言葉を使って伝えたそうだ。
「人間誰だって間違うことなんてある。
今回のことは決して間違ってはいけないことだったけど、もう後戻りは出来ない。
私もあなたの妻だから、私にもあなたをそうさせた責任もあると思う。
失うことになった命は形はどうあれ、あなたの子どもであることに代わりはないと思っている。
だからもしあなたとの間で子どもをもうけることになったなら、
私はその子を第2子と思って育てたいと思っている。
それが、私が自分の幸せを優先した結果に伴うことなんだと思うから。
あなたが償うというのなら、私もあなたの罪を一緒に背負って生涯を共にしたい。
でもまた今回と同じ間違いを犯したなら、
あなたと過ごすことはたぶん精神的に耐えられないと思うからあなたの元を去ることになると思う。
だから、もう2度と同じ間違いを犯さないで欲しい」
旦那さんも改めて向かい合い話す彼女に対して自分の犯した罪も含めて受け入れてくれることに感謝し、2人はまた夫婦として歩んでいくことを改めて確認したそうだ。
しかし、そんな不思議と穏やかな気持ちも時間が経つにつれて変化していったそうだ。それほどまでに一連の騒動で付いた傷の爪痕はすさまじかったということなのかも知れない。
というのも、その後の生活がすっかり変わってしまったからだという。
旦那さんが仕事で出かけた後、1人で家事をしている最中のふとした瞬間に「こんなことをしている間に彼女の元へ逢いに行ってたんだ」と思い出し虚しさや悲しさなどでいっぱいになってしまう。酷いときは嗚咽を漏らすほど泣いたこともあったそうだ。またあるときは結婚後の旦那さんと過ごした楽しい想い出を思い出すと、同時に相手と旦那さんが会っていたという事実も引っ張り出されてしまう。特に2人の結婚式でとったお互いが寄り添って微笑む写真を見ると、「あの時はこんなことになるなんて思ってなかったのに…」と当時の無邪気だった頃を引き合いに出して今の虚しい気持ちを助長してしまうという具合だったそうだ。さらには恋愛を思わせる楽曲や、ドラマの恋愛シーンなどがテレビやラジオで放映されると、当時の相手と旦那さんとの関係を連想してしまって視聴するだけつらくなり、また結婚や妊娠ということに対して過敏になってしまい、友人の結婚や妊娠・出産について素直に喜んであげられずに苦しんだそうだ。
それでも彼女は自分自身に何度も何度もこう言い聞かせて過ごしていたそうだ。
「夫が私を信じたり裏切ったりすることと、私が夫を信じることは別次元の話だ。
夫から見返りが欲しくて信じている訳じゃない」
「今まで組み上げたまま放っておいて埃が被った『信頼』という積み木が衝撃で崩れてしまっただけ。
昔に組み上げたせいで組み方を忘れているから形が変わるけどけれど、
それでもまた一から少しずつ組み上げるだけの話だ」
しかしながら彼女がそう思えば思うほど、彼女の心の中では「本当に夫の中で相手とのことは終わっているのだろうか、夫を信じて本当に良いんだろうか」という疑念がわき起こっていたそうだ。だからといって旦那さんへ面と向かって相手とのことを聞くのは、相手を傷つけることになったという旦那さん自身が負った傷に塩をすり込むような行為であるしとも思っていたものの、彼女の生来からの『分からないことは納得するまで追求したい』という欲求には勝てず、彼女は旦那さんを出来るだけ傷つけないように言葉を選びながら当時の旦那さんについて尋ねるものの、決まって『分からない・忘れた』と言われてしまったのだそうだ。といっても、旦那さん自身が隠したくてそう言ってるんじゃなかったと思う、と彼女は言う。というのも彼女曰く、元々旦那さんは済んだことについて反復して想いを巡らす質ではない人らしく、「結婚した後、私とつきあっていた当時のことについて旦那さんに尋ねたときも『分からない・忘れた』の連発だったくらいだからね」と彼女は苦笑しながら話していた。
そんなある日、旦那さんが仕事に出かけた後、彼女は捜し物をするため旦那さんの書類を入れている引出を開けたそうだ。そこには見覚えのある封筒があったという。それは彼女があの日、旦那さんから渡されたと同じ、相手からの手紙だったそうだ。彼女は悪いと思いつつも、その衝動に耐えきれずに封筒の中身を見たそうだ。その瞬間、彼女の目に飛び込んできたものは相手の手紙と、一連の出来事が紛れもなく現実に起きたことだと訴える1枚の白黒のエコー写真だったそうだ。
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