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突然の呼び出しに隠れた本当の目的 <哀しい物語・9>

相手の両親と彼女の旦那さんとの直接の話し合いから1週間ほど経った頃、旦那さんの携帯に相手の母親から書類に判を押してもらう必要があるから来て欲しいという内容のメールが届いたという。メールが届いた翌日の夕方、旦那さんの仕事の後で相手の自宅へ向かうことにしたのだそうだ。このときは彼女も彼女の旦那さんも書類に判を押すだけですむと思っていたという。しかし目的は判を押してもらうことだけではなかったそうだ。それは旦那さんが相手の家へ訪れてから判明することになったという。

この日も判を押すだけならと彼女は先日尋ねたときと同様に車の中で待っていたという。旦那さんが相手の家を訪れて数時間後、旦那さんは暗い顔で車に戻りそのままうなだれていたそうだ。そのうなだれ方に心配し彼女が聞いたそうだ。何があったのか、と。その問いに旦那さんは答えたという。判を押すだけの目的ではなかった、と。

判を押すだけではなかったというその目的は、相手の母親の気持ちの吐露と相手の兄の憤りを受けることだったそうだ。相手の母親は旦那さんの妻が最も辛い立場だと思うが…と前置きをしながらも、自分がどれだけ辛いかを繰り返し繰り返し告げられ、また相手の兄は元々感情のままに振る舞う性格らしく、憤りをそのまま旦那さんにぶつけられたそうだ。さらにはそれだけでは収まらず、相手の母親と兄は旦那さんの両親も相手の自宅へ来るように迫ったという。旦那さんの両親にも私の気持ちを知ってもらわねば気持ちの整理が付かない、と。そうして旦那さんは自分の実家へ電話をかけたそうだ。

そんな話を彼女が聞いていると、彼女の携帯が鳴ったという。旦那さんの実家からの電話だったそうだ。旦那さんに了解を得てから電話に出ると、何があったのかと問われたそうだ。ここでごまかしても仕方のないことであるし、旦那さんも覚悟をしていることもあり事実をそのまま淡々と話したそうだ。話していくうちに電話先の旦那さんの母親が狼狽していくのが声から分かり、さらには母親の話を後ろで聞いている旦那さんの父親が発するいらだちの声も耳に入り、彼女はいたたまれない感情に苛まされたそうだ。一通り話した後、相手の家から旦那さんの実家へは車で30分もあれば向かえる距離にある事を伝えると、旦那さんの両親からひとまず自分たちの家へ帰ってくるように言われたという。それに反対しても意味のないことと思い旦那さんの両親の言葉に従うことにしたそうだ。

旦那さんの実家に行くと怒り心頭という態度の旦那さんの父親と狼狽しつつも心配そうな顔をした旦那さんの母親が出迎えてくれたそうだ。旦那さんと顔を合わせた途端、旦那さんの父親は涙目になり覚悟をした旦那さんへなんというバカなことをしたんだという罵倒を浴びせたという。旦那さんの母親は玄関先で話しているのもなんだからと、彼女と旦那さんに家へ上がるように促したそうだ。旦那さんの父親が事の経緯を旦那さんに聞き出している間に、旦那さんの母親は彼女にとりあえず何か食べなさいと温かいうどんを用意していてくださったそうだ。しかし旦那さんと父親と母親の間に流れる緊張感や自分の中の感情やらで彼女はすでに食欲が無く、うどん1本を口に入れるのがやっとだったという。旦那さんの父親は人に頭を下げたことなんかないといいつつも、彼女に申し訳ないと頭を下げてくださったそうだ。旦那さんの父親としては旦那さんを張り倒した気持ちでいっぱいだったのだそうだが、結局張り倒されることはなかったという。また相手の中絶についても話が出たとき彼女は同じ女性として強くは言えないと伝えたそうだ。だが「産んだ子どもを相手が育てられなくなったときに引き取れるのか」という旦那さんの両親の言葉に彼女は言葉が返せなかったという。人生でまだ1度も出産や子育てをしたことのないのに、ましてや相手の子どもを引き取って立派に育てるなど到底想像も出来ないことだったから、と彼女は言っていた。

旦那さんとその両親が一通り話した後、旦那さんの両親は相手の両親に謝罪するならすぐの方が良いと、夜半前ではあったが相手宅へ電話をかけすぐに向かうと伝えたのだそうだ。電話先の相手の母親は旦那さんの両親が今すぐに自宅へ向かうことに対して遠慮していたようだが、旦那さんの母親の押しですぐに向かうことに話はまとまり、旦那さんの先導で相手の自宅へ向かうことになったそうだ。

旦那さんの両親と共に旦那さんがもう一度相手の家へ向かうとき、彼女は相手の自宅近くまで一緒に行ったものの、相手の家には上がらず車の中に残ったそうだ。彼女もそうしたいと思ったのもあり、また旦那さんの両親が辛いだろうからと気遣ってくださったからのことだという。彼女は家から出てきたときの旦那さんの様子を想像し、また夜中中走らなければならない帰りの運転のことを気にして車の中で仮眠をすることにしたのだそうだ。しばらくは目がさえて眠ることが出来なかったそうだが、いつの間にか意識がなくなっていたという。

車の窓をこつこつと叩く音に気付いて彼女が目を覚ますと旦那さんと共に旦那さんの両親が立っており、仮眠をしていた彼女を見て旦那さんの父親は少し驚いていたそうだ。彼女が窓を開けると、もう終わったから何も心配しないで良いと旦那さんの両親は彼女に言ったそうだ。夜半はとうの昔に越えていたそうだ。旦那さんの両親は旦那さんの明日の仕事を心配してゆっくりで良いから自宅に帰るように促されたそうだ。彼女もそれに従い、途中まで旦那さんの両親の車に先導してもらい、その場を後にしたそうだ。旦那さんへは次の日の仕事に響いたら困るからと助手席で仮眠を取るように促しながら、街灯とヘッドライトだけが頼りの暗い道をひたすら自宅へ向けて走ったという。そうして自宅に着いたのは夜がほとんど明けた頃だったそうだ。すでに眠りに入っているであろう旦那さんの両親に無事に家にたどり着いたことを伝えるメールを送った後、彼女はようやく布団に潜り込んだらしい。

後日、旦那さんから彼女はその日のやりとりの話を聞いたそうだ。相手の母親が旦那さんの両親がすぐに来られるのを遠慮したのは、相手の母親が旦那さんの両親を呼んで欲しいと言ったのが相手の父親の知らないところの話だったからのようだったそうだ。事実、旦那さんと共に旦那さんの両親が尋ねたときに相手の父親はたいそう驚いていた様子だったという。また相手の母親と同様に旦那さんの両親を呼んで欲しいと声を荒げて言っていた相手の兄は旦那さんの両親が向かったときには結局家にいなかったそうだ。相手の母親は自分のつらさを分かってもらいたいという話を延々とし、相手の父親にいい加減にしろと止められる場面もありつつも、話し合いの中で最終的に相手の受ける中絶手術の費用は旦那さんの両親持ちになったそうだ。

そうして彼女の長かった夜はひとまず終わりを迎えたという。できれはご両親に伝えずに済ませたかったという。こんな形でご両親に心配をかけたくなかった、と彼女は言う。しかしまだ終わったわけではなく、ただひとつの経過点を過ぎただけに過ぎなかったのよ…と、彼女は切なげに告げたのだった。

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